長めの話を置いています
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クヅカ10
 冷房は18℃だった。少し肌寒そうな二人にカーディガンと長袖のシャツを渡す。マユちゃんは嬉しそうに「ありがと」と応えたけれど、タカヒコくんは素直じゃなくて、「いいよ、別に」とすまして言った。
「ごめん、冷房切るね」
「……いい、いい」
 そう言ってぶんぶんと首を振るタカヒコくんに、口元がむずむずした。笑みをこらえて、「じゃあ、これもらって?」とシャツを差し出すと、タカヒコくんは少しためらったあとにようやく受け取った。私の服を羽織った二人は、同じタイミングで袖のにおいを嗅いだりして、私は思わず吹き出した。不思議そうに私の顔を覗き込んできたタイミングもまた同じで、さらに吹いてしまった。
「何でもない」
 私は何とか笑いをおさめて言う。
「んー? うん?」
 タカヒコくんは首を傾げながらも頷いた。
 ベッドに座ると、すぐにマユちゃんが寄ってきた。彼女は私の膝が気に入ったみたいで、私がどこかに座ると必ずそこに這い上った。私の膝の上でしばらく足をぶらぶらさせていたけれど、やがて持っていた携帯ゲームをやりはじめた。
 ゲーム画面が横に流れていく。マユちゃんは指を複雑に動かし、画面を見つめたままあんまり瞬きもしない。頬を突付いてみたけれど、今は忙しいらしく、「んー」と嫌がるだけなのが何だかさみしかった。
 タカヒコくんは私の右後ろに寝転がって、ずっと漫画を読んでいた。今読んでいるのは田中メカ。ちょっと前の少女漫画で、たぶん名前と『お迎えです。』というタイトルに気をひかれたのだろう。「面白い?」と聞くと、「んー、うん」とやる気のない答えが返ってきた。マユちゃんと似た反応が微笑ましい。兄妹なのだなぁと思う。
 今日は八月三十日で、明日の朝には迎えが来て、二人は家に帰る。私と遊ぶのは今日が最後で、せっかくなのでカズミとアヤコも呼んでいた。昼前に来ると言っていたから、もうそろそろやって来るはずだ。
 ゲームがぴこぴこ鳴っている。私はやることがなくて、マユちゃんの髪をいじって遊んだ。髪を三つ編みモドキにしてまたほどく。ポニーテールにしたり、左右で二つにまとめてみたり。髪のゴムが近くになかったから、輪にした指をその代わりにする。マユちゃんの髪は細くてさらさらで、なかなかうらやましく、いじっていると妙になごんだ。
 ふと目をやると、タカヒコくんはあくびをして大口を開けていた。目が合ったので軽く笑ってみせると、タカヒコくんは恥ずかしそうに目をそらした。すぐにマユちゃんが「んー」と伸びをする。ゲームを終えたらしい。彼女はじりじりと体の向きを変え、私と向かい合った。笑いかけてきたから笑い返すと、マユちゃんは私の首に腕を回しぎゅっとして、私の肩辺りに顔を埋め甘えてきた。突然のことで少し戸惑う。
「ん? どうしたの?」
 聞いても、「んーんー」と喉を鳴らすだけで何も答えてくれない。タカヒコくんが、しょうがないなぁという顔をする。私は少し首を傾げてみせたけれど、タカヒコくんはすぐに漫画に戻ってしまった。冷たい子だ。
 もしかするとマユちゃんは、さっきので私がすねたかと思って、かまってくれているのかもしれない。いや、ただ単にこうやって突然甘えてくるくせがあるのかもしれない。
 ともかく私は、マユちゃんの頭を撫でたり背中をさすったりした。泣いてる子にする対応だなぁと思いながらも続けていると、しばらくしてマユちゃんは顔を上げた。にへへと照れくさそうに笑う。鼻血が出そうな笑顔だった。
「どうしたの?」
 顔を覗き込んでもう一度聞いた。ちょっと油断した。頬にキスされた。
「へっ?」
 間抜けな声が出た。マユちゃんはまた私の肩に顔を埋める。「マユちゃん?」と呼びかけても彼女は顔を見せないままぐりぐりと首を振った。それは、いろいろ、ずるい。タカヒコくんがびっくりしたような目で私とマユちゃんを眺めている。どうしようかなぁと考えてから、
「んー、じゃあ仕返し」
 私も腕の中の彼女にキスを返した。頬に軽く触れる。マユちゃんは「やー」と悲鳴を上げて、またぐりぐりと首を振った。ぐりぐりされる鎖骨が少し痛そうな気がした。
 さらに二三秒ほど考えて、「タカヒコくん」と私はにっこりして呼びかけた。タカヒコくんは怯えたようにびくりとした。
「ちょっと来て」
 怯えた目をした年下の男の子に欲情する。
「来て来て」
 手招きする。タカヒコくんは膝立ちで、恐る恐るという感じに近寄ってきた。
 口にしようかと一瞬迷ったけれど、やっぱり頬にした。トラウマを植えつけるはやめておくことにした。タカヒコくんは頬に手を当て、難しい顔をしている。どう反応していいのかわからないのだろう。頭を撫でると赤くなった。こんな行動、私らしくない気もしたけれど、たまにはいいかなと思う。照れる二人を交互に眺める。頬がゆるむ。


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