長めの話を置いています
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クヅカ9
 車とロウソクと懐中電灯。その三つの明かりでも、夜をぼんやりとしか照らせない。光の帯から少し離れるだけで姿を消せてしまい、怖いのに、頭のどこかはそれもいいかもしれないと考えている。胸の奥がむずむずする。それは恐れなのか、あるいはまた別のものなのか、わからない。
 ロウソクの向こうでアヤコと少年がじゃれあっている。まるで子犬の兄弟みたいだと思ったけれど、詩的な感じが恥ずかしいから口にはしない。すぐ横にマユちゃんがいて、目を移すと、今まさに花火に火を点けようとしているところだった。しゃがんで息をとめ、ぐっと手を伸ばして。少し怖がっている様子が何となく可愛い。頭を撫でたり頬を突付いたりしたかったけれど、危ないので今はやめておくことにした。
 少し離れたところでミサコがアイスをかじっている。休憩中のようで、クーラーボックスに座って、ぼーっとこっちを眺めている。のんびりしているところは変わらない。そのことに少しほっとするけれど、軽い苛立ちも覚えた。
 ミサコは死んで、まだ生きている。弔われたはずなのに、今のんきにスイカバーをかじっている。
 花火が白い光を吐き出す。マユちゃんは立ち上がって花火を振り回す。わたしが飛び散る火花を恐れて二三歩下がると、彼女はいたずらが見つかったときのような照れ笑いを浮かべた。振り回すのをやめてゆっくりと空に図形を描く。丸や三角。ひらがな。楽しそうな様子に、つい笑みがこぼれた。
 持っている花火の火が消えると、マユちゃんはキョロキョロと辺りを見渡しはじめた。ミサコを捜しているのだろうと思ったけれど、くやしいので黙っておいた。わたしが自分の花火に火を点けるのとほぼ同時に、マユちゃんはミサコを見つけて小走りにそっちに向かった。
 火は赤から緑に変わる。わたしは花火から噴き出る光をじっと見つめる。物悲しい気持ちにもなったけれど、それも悪くない気がした。花火の光はやがて消える。
 黒焦げになった花火を持って、わたしもミサコのところに行った。ミサコの膝の上にマユちゃんがいて、まるで仲の良い姉妹のようだった。マユちゃんはミサコを「おねえちゃん」と呼び、他の誰よりも懐いている。
「うらやましい?」
 ミサコがわたしを見上げて口の端で笑った。意地の悪い笑み。もちろんうらやましいに決まっているのだけれど、ミサコには意地悪をする才能がなくて、こういうとき妙になごんでしまう。それでも呻いて唇をかむと、ミサコは「あはは」と楽しそうに笑った。
 スイカバーをひと口もらう。向こうでアヤコと少年がしゃがんで、ぼそぼそと何かを話している。マユちゃんが足をぶらぶらさせて、それに合わせてミサコの体もゆらゆらと揺れる。
 わたしはミサコを見つめる。首筋。耳。唇がわたしの知らない歌を口ずさむ。てのひらが小さな女の子の頭を撫でる。
 この光景を憶えておきたいと思う。じっと見つめて目に焼き付ける。忘れっぽいわたしは十年もすればミサコの顔を忘れてしまうかもしれない。それでも今は、彼女をずっと長く記憶にとどめておきたいと願う。
 ミサコの指先がマユちゃんの髪をなぞっていく。つむじの横から耳の後ろ、細い首筋。わたしも同じように後ろからミサコの髪を撫でた。
「ん?」
 ミサコは首を反らし、わたしを見上げた。その顔が無邪気で間抜けで、ふいに泣きそうになった。けれど恥ずかしいからぐっとこらえて、口の端でちょっと笑ってみせる。
「何か付いてた?」
「や、何も」
「そう?」
「……うん」
 髪を撫でる。マユちゃんが気持ちよさそうに目を細めている。


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