長めの話を置いています
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クヅカ7
 近くに映画館はなかった。映画が見たければ、町まで車を飛ばすか電車を乗り継ぐかをするしかない。私の隣には父がいて、目覚ましガムを噛みながら車の運転をしている。私は眠たい目をこすりあくびをする。母は車酔いをする性質なので後部座席で目を瞑っていた。日は昇ったばかり。一日でいちばん気温の低い時間、少し開けた窓から入ってくる風が涼しく、このまま釣りに行きたくなる。
 何かやりたいことはないかと聞かれて、私は映画が観たいと答えた。田舎育ちの私には、映画を観ることもちょっとしたイベントだった。
 お盆休みで人手が多いのと、死んだはずの私が誰かに見られたら困るのとで、こんな早朝に出かけることになった。本当は演劇なんかも見たかったのだけど、どこでやっているのかわからなかったし、はずれたときがいやだったので、無難に映画にした。演劇が観たいと言ったら言ったで調べてくれるのだろうけど、そこまでの強い思い入れはなかった。
 父の横顔をちらりと眺める。再び死ぬまでの時間をずっと釣りに当てたいと言ったら怒るだろうか。いや、怒らないと思うけれど、たぶん少し悲しそうな顔はする。釣りは、私が死ぬ原因になったことで、そして手助けしなくていいやりたいことだ。
 私は釣りが好きで、でもそれはひとりで完結できてしまうことで、だからこんなとき何か申し訳なくなってしまう。自分がもっと積極的にあれがしたいとこれがしたいと言えて、死にたくないと泣き叫ぶような人間だったらと考えて、全然自分らしくないなぁと苦笑する。いつだったか友達に、「枯れてるねぇ」と言われたこともあったけれど、こんな自分が嫌いってわけでもない。
 ふと、友達に会いたいなと思う。カズミやアヤコに。葬式では二人とも泣いていたそうだけど、カズミはわかるとしてもアヤコが泣いているところは想像できなかった。いや、もしかしたら姉御肌のアヤコのほうが実は涙もろいのかもしれない。ごめんねと思うと同時に、少しからかってやりたくもなった。
「やりたいこと」で、友達に会いたいと言うのもいいかもしれない。許されることかどうかわからないけれど、帰ったときにでも言うだけ言ってみようと思う。
 砂利道がひび割れたアスファルトに変わる。車は川沿いの道を通り、私はつい川の中を覗き込んでいた。みやげ物屋とか民宿とかが増えてきているけれど、道の脇にはまだ雑草が生えている。土と草と水のにおいがして、ふと「タンスのにおいがする」と言ったタカヒコくんの言葉を思い出した。タンスのにおいってどんなだと思い、私は腕を鼻のところに持っていく。そのまま、すう、と息を吸うと、微かに薬品のにおいがした。防虫剤のにおいに近くて、確かに「タンスのにおい」という感じだった。
 タカヒコくんと同じで、けっこう好きなにおいかもしれない。変態かなぁ、と少し笑う。
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